個人事業の会計ソフトは、製品を見比べる前に「青色申告65万円控除をどう取るか」「明細の取り込みが要るか」「請求書と消費税まで任せるか」の3つを決めると、候補が自然に絞れます。 65万円控除の条件は、複式簿記で記帳して貸借対照表と損益計算書を期限内に出すことと、e-Taxで提出するか優良な電子帳簿で保存することです。会計ソフトの役目は、この「複式簿記の帳簿」の部分を担うことです。申告書を作って出すだけなら、国税庁の確定申告書等作成コーナーでもできます。ソフトを使うかどうか自体に迷っている人は、作成コーナーで足りる人・足りない人を先に読むと判断が早くなります。

最初に決めること:どの控除を狙うか

青色申告特別控除は3段階で、段ごとに帳簿に求められる水準が違います。

控除額帳簿と提出の条件ソフトの必要度
65万円複式簿記+決算書の添付+期限内+(e-Tax か 優良な電子帳簿)高い
55万円複式簿記+決算書の添付+期限内高い
10万円簡易な帳簿でよい低い

10万円の段なら、現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳のような簡易な帳簿で足ります。表計算ソフトでも回せます。55万円・65万円を狙う段になると、1年分の仕訳を貸借対照表までつなげる必要があり、ここで会計ソフトの出番が来ます。

青色申告そのものには、税務署の承認が要ります。承認申請の期限は原則として青色申告にしたい年の3月15日、1月16日以後に開業した人は開業から2か月以内です。手続きの順番は開業届と青色申告承認申請の記事にまとめています。

軸1:65万円をe-Taxで取るか、電子帳簿で取るか

65万円の上乗せの10万円分は、次のどちらかで満たします。

  • e-Taxで申告する:ソフトから直接送信するか、作成コーナーに決算書の数字を移して送信します。貸借対照表や損益計算書をPDFなどの画像データで送る方法では条件を満たさない点に注意します。
  • 優良な電子帳簿で保存する:仕訳帳と総勘定元帳について、優良な電子帳簿の要件を満たして電子データで保存し、その旨を書いた届出書を出します。

多くの人にとって手軽なのはe-Taxのほうです。選ぶソフトに求めることは、「e-Taxで直接送れるか」か、少なくとも「作成コーナーに移しやすい形で決算書の数字を出せるか」の2点です。電子帳簿で取るつもりなら、ソフトが優良な電子帳簿の要件に対応しているかを、提供元の案内で確かめます。

軸2:銀行・カードの明細を取り込みたいか

取引の件数が少ないうちは、手入力でも困りません。件数が増えると、入力の手間と誤りが増えます。銀行口座やクレジットカードの明細を取り込み、仕訳の候補を作る機能があるかどうかは、製品ごとの差が出やすいところです。

選ぶときは、自分が使っている金融機関やカードに対応しているかを、提供元の対応一覧で確かめてください。取り込んだ明細も、仕訳として正しいかは自分で確かめる必要があります。私的な支払いが混ざる口座を使っている人は、事業用の口座とカードを分けるほうが、取り込みの効果が大きくなります。家賃や通信費を按分する考え方は副業の経費の範囲の記事で扱っています。

軸3:請求書と消費税の申告まで任せるか

インボイス発行事業者が適格請求書を出すときは、登録番号・取引年月日・取引内容・税率ごとに区分した対価の額と適用税率・税率ごとの消費税額・相手の名称を書く必要があります。請求書の作成から売上の記帳までを1つのソフトでつなげると、入力の二度手間が減ります。

消費税の申告も、令和8年分から先は計算の仕方が変わります。

年分(個人)使える主な計算確かめる点
令和8年分まで2割特例2割特例で申告書を作れるか
令和9・10年分3割特例(登録で課税事業者になった人)3割特例に対応するか
その後簡易課税か本則課税事業の区分ごとの計算に対応するか

2割特例は、令和8年9月30日を含む課税期間までで終わります。個人事業者なら令和8年分の申告が最後です。令和9年分・10年分は、登録によって免税事業者でなくなった個人事業者が、納める税額を売上の消費税額の3割にできる特例が使えます。簡易課税を選ぶ場合のみなし仕入率は、第1種90%から第6種40%までです。インボイスに登録するかどうか自体は、副業とインボイスの記事で考え方を整理しています。

軸4:データをどこに、どれだけ残すか

帳簿と書類には保存期間があります。

保存するもの保存期間
青色申告の帳簿原則7年
請求書・見積書・納品書など5年
白色申告の法定帳簿7年
白色申告の領収書などの書類5年

会計ソフトのデータがソフトの中にしかないと、解約や乗り換えのときに困ります。仕訳帳・総勘定元帳・決算書をファイルとして書き出せるかを、契約前に確かめてください。

事業の段階ごとの目安

段階目安会計ソフトの位置づけ
副業の雑所得収入と経費の集計で足りるなくてもよい
開業直後・白色簡易な帳簿でよい表計算で足りることも多い
青色10万円簡易な帳簿でよい必須ではない
青色55万円・65万円複式簿記と決算書使う利点が大きい
インボイス登録済み請求書と消費税の申告請求書機能と申告の対応を確かめる

使い始めに決めておくこと

ソフトを選んだあと、最初の設定で次の3つを決めておくと、年末に慌てずに済みます。

  1. 事業用に使う口座とカード:取り込みの対象にするものを決めます。私的な支払いと混ざる口座は、按分の記録が必要になります。
  2. 家事と事業が混ざる費用の割合:家賃・通信費・電気代などは、使用面積や使用時間など根拠のある割合で分け、その根拠を残します。
  3. 所得の区分:青色申告ができるのは事業所得・不動産所得・山林所得がある人で、業務に係る雑所得だけの人は青色申告の対象になりません。どちらで申告するかで、帳簿に求められる水準が変わります。迷うときは所轄の税務署に確かめます。

実行時の落とし穴

  • 承認申請を出していないのに青色で申告する:会計ソフトで青色申告決算書を作れても、税務署の承認がなければ青色申告にはなりません。
  • 期限後に出す:55万円・65万円は申告期限までの提出が条件です。令和8年分の期限は2027年3月15日で、遅れると還付の申告でも10万円に下がります。
  • 年初の残高を入れない:貸借対照表は、年初と年末の残高を比べて作ります。使い始めの設定で、事業用の口座の年初の残高を入れておきます。
  • 料金の比較だけで決める:料金は提供元ごと・時期ごとに変わります。申し込む前に提供元の料金表で、申告する年分への対応と、無料の範囲を確かめてください。

よくある誤解

  • 「会計ソフトを使えば自動的に65万円控除になる」:ソフトは帳簿づけの道具です。承認申請、期限内の提出、e-Taxでの送信か電子帳簿の届出がそろって、初めて65万円になります。
  • 「クラウドの帳簿なら電子帳簿保存の要件を満たす」:優良な電子帳簿として65万円を受けるには、要件を満たしたうえで届出書を出す必要があります。保存の場所だけでは決まりません。
  • 「白色申告なら帳簿は要らない」:事業所得がある人は、白色申告でも記帳と帳簿・書類の保存の義務があります。記帳は日々の合計をまとめる簡易な方法でもかまいません。

出典

(いずれも2026年10月1日に確認)