副業の売上が小さいうちは、インボイスの登録は義務ではありません。個人の場合、前々年の課税売上高が1,000万円以下なら原則として消費税の納税が免除される「免税事業者」で、登録しなければ消費税の申告も要りません。 登録するかどうかは、取引先がインボイスを必要としているかと、登録した後の消費税の負担を比べて決めます。2026年10月1日から、取引先が登録していない相手への支払いについて控除できる割合が8割から7割に下がりました。一方、登録した人の負担を軽くする2割特例は令和8年分で終わり、令和9・10年分は3割特例に切り替わります。この記事では、この2つの動きを年度つきで並べ、登録する・しないそれぞれの負担を数字で確かめます。どちらが正しいかは取引の中身で変わるため、最後は取引先と話し合って決めることになります。

インボイスが必要になる理由

インボイス(適格請求書)は、買い手が消費税の「仕入税額控除」を受けるための請求書です。買い手は、受け取ったインボイスに書かれた消費税額を、自分が納める消費税から差し引きます。インボイスを出せるのは、税務署に登録した「適格請求書発行事業者」だけです。

国税庁の No.6625 によると、インボイスに書く事項は次の6つです。

  1. 発行する事業者の氏名または名称と登録番号
  2. 取引年月日
  3. 取引の内容(軽減税率の対象ならその旨)
  4. 税率ごとに区分した対価の額の合計と適用税率
  5. 税率ごとに区分した消費税額等
  6. 受け取る事業者の氏名または名称

取引先から登録番号を聞かれたのは、取引先がこのインボイスを受け取りたいからです。

登録すると、自分が消費税を納める側になる

国税庁の No.6501 によると、前々年の課税売上高が1,000万円以下なら原則として納税義務は免除されますが、登録を受けている場合は免除されません。登録した時点から、売上の規模にかかわらず消費税の申告と納税が必要になります。個人事業者の消費税の申告期限は、翌年の3月31日です。

免税事業者が登録を申請するときは、提出日から15日以降の日を登録希望日として書いて出します(No.2090)。年の途中で登録した場合は、登録日以後の売上が申告の対象になります。

登録した人の負担を軽くする特例(年度つき)

年分(個人)使える特例納める消費税の目安
令和8年分まで2割特例売上の消費税額の2割
令和9年分・10年分3割特例売上の消費税額の3割
令和11年分以後なし(簡易課税か本則課税)事業の区分ごとのみなし仕入率などで計算

2割特例は、令和8年9月30日を含む課税期間で終わります。個人事業者では令和8年分の申告が最後です。3割特例は令和8年度税制改正で新しく設けられ、個人事業者だけが使えます。どちらも、免税事業者が登録したことで課税事業者になった年分に限られ、3割特例は確定申告書にその旨を書く必要があります。

2割特例や3割特例を使った翌年分から簡易課税に移りたい場合は、その翌年分の確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を出せば、その年分から簡易課税を使える扱いに改められました。簡易課税のみなし仕入率は、事業の区分により90%から40%です。

数字で見ると

税抜の売上が年300万円で、受け取った消費税が30万円の場合、2割特例なら納める額はおよそ6万円、3割特例ならおよそ9万円です。これが、登録したときに手元から出ていく金額の目安です。取引先に消費税を上乗せして請求できていれば、受け取った30万円の一部を納める形になります。

登録しないとき、取引先に起きること

取引先が登録していない相手から仕入れた場合でも、経過措置で一定の割合は控除できます。令和8年度税制改正で、この割合と期限が見直されました。

期間取引先が控除できる割合
令和5年10月〜令和8年9月80%
令和8年10月〜令和10年9月70%
令和10年10月〜令和12年9月50%
令和12年10月〜令和13年9月30%
令和13年10月以後0%

改正前は、令和8年10月から3年間50%とされていました。改正で下がり方が緩やかになり、期限が2年延びた形です。また、令和8年10月1日以後に始まる課税期間からは、1つの相手からの仕入れが年1億円を超えた部分には経過措置が使えなくなりました。

つまり、今年10月からは、登録していない相手に消費税込みで11万円払うと、取引先は1万円の消費税のうち7割(7,000円)しか控除できず、3,000円は取引先の負担になります。この差がいつ、どれだけ広がるかが上の表です。

登録するかどうかを考える順番

  1. 取引先が誰か:一般の消費者や、簡易課税・2割特例で申告している事業者との取引が中心なら、インボイスがなくても取引先の控除額は変わりません。簡易課税や2割特例は、売上の消費税額から控除額を計算するためです。
  2. 取引先の希望:本則課税の事業者で、インボイスを求められているなら、登録しない場合の条件(価格や取引の継続)を話し合う必要があります。
  3. 自分の負担:上の数字の例のように、2割特例・3割特例で納める税額を見積もります。令和11年分以後の負担も、簡易課税で試算しておくと判断が崩れません。
  4. 事務の手間:請求書の書き方と保存、年1回の消費税の申告が増えます。帳簿の道具は個人事業の会計ソフトの選び方で扱っています。

実行時の落とし穴

  • 登録してから申告の準備をしていない:登録した年から消費税の申告が要ります。所得税の申告期限(3月15日)と消費税の申告期限(3月31日)は別です。
  • 2割特例がずっと続くと考える:個人は令和8年分で終わりです。令和9・10年分は3割特例で、納める額は増えます。
  • 3割特例の付記を忘れる:3割特例は確定申告書にその旨を書く必要があります。
  • 事業としての届出の順番を後回しにする:開業届や青色申告の承認申請と一緒に考えると、手続きが1回で済みます。順番は開業届と青色申告承認申請の記事で確かめてください。

よくある誤解

  • 「副業でもインボイス登録は義務」:義務ではありません。登録するかどうかは事業者が選びます。
  • 「登録しないと取引先は1円も控除できない」:令和13年9月までは、経過措置で一定割合を控除できます。今年10月からは70%です。
  • 「登録しても売上1,000万円以下なら消費税は払わない」:登録を受けると、売上の規模にかかわらず納税義務は免除されません。
  • 「3割特例は法人も使える」:3割特例の対象は個人事業者だけです。

副業の所得の計算そのものについては、副業で経費にできるものの記事で扱っています。

出典

(いずれも2026年10月1日に確認)