生活防衛資金は、病気・けが・失業などで収入が止まったときに、生活を続けるためのお金です。必要な額は「月の生活費 × 何か月分」で決まり、何か月分にするかは、収入が止まってから公的な給付が入るまでの空白と、給付だけでは足りない分で決まります。会社員は傷病手当金や雇用保険の基本手当で収入の一部が補われるので3〜6か月分、自営業やフリーランスはそうした補てんがほとんど無いので6か月〜1年分、というのがこの記事で計算した目安です。単身か、共働きか、片働きで子どもがいるかでも変わります。以下で、自分の額を出す手順を順に説明します。

金額が人によって違う理由

「生活費の3か月分」「半年分」「1年分」といった目安はよく見かけますが、どれも公的な基準ではありません。幅があるのは、次の3つが人によって大きく違うからです。

  1. 月の生活費そのもの:家賃や住宅ローン、家族の人数で変わります
  2. 収入が止まったときに、公的な給付がどれだけ出るか:加入している健康保険と雇用保険で決まります
  3. 給付が出るまでに、どれだけ空白があるか:申請から振込までの期間や、自己都合退職の給付制限で変わります

つまり、同じ月20万円で暮らしている人でも、会社員と自営業では、必要な生活防衛資金が倍以上違うことがあります。

収入が止まったとき、公的な給付はどれだけ出るか

まず、自分の働き方で使える制度を確かめます。

会社員・公務員(健康保険・雇用保険に加入)

病気やけがで働けないとき:傷病手当金

協会けんぽの場合、傷病手当金は、連続して3日間休んだ後、4日目以降の働けなかった日に対して支給されます。1日あたりの額は「標準報酬月額 ÷ 30 × 3分の2」で、支給期間は支給を始めた日から通算して1年6か月です(全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)」、2026年9月確認)。健康保険組合や共済組合に加入している人は、給付の条件を加入先で確かめてください。

ここで押さえておくのは、給与の全額ではなく約3分の2になることと、休んでいる間も社会保険料や住民税の支払いは続くことです。住民税は前年の所得を基準に課税されるため(総務省「個人住民税」)、収入が減った年にも前年の所得に応じた額がかかります。

失業したとき:雇用保険の基本手当

基本手当の1日あたりの額は「離職前6か月の給与の総支給額 ÷ 180 × 給付率」で、給付率は離職時の年齢と賃金によって45〜80%です。受給手続きの日から原則7日間は待期期間で支給されません。正当な理由のない自己都合退職は、待期の後、原則1か月間の給付制限があります(退職日が2025年4月1日以降の場合。過去5年間に2回以上の自己都合退職があると3か月)。失業の認定は原則4週間に1回で、認定日から約7日後に振り込まれます(厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」、2026年9月確認)。

自己都合で退職した場合、手続きをしてから最初の振込までに、待期・給付制限・認定・振込の順で少なくとも1か月半ほどの空白ができる計算になります。離職票が届くまでの日数も加わります。

自営業・フリーランス(国民健康保険・国民年金)

国民健康保険では、傷病手当金は、市町村や国民健康保険組合が条例や規約で定めた場合に支給できる任意の給付です(国民健康保険法第58条第2項)。会社員の健康保険のように、加入していれば必ず出るものではありません。加入している国保の窓口で、制度があるかを確かめてください。

また、雇用保険に加入していない自営業の人は、廃業しても基本手当の対象になりません。収入が止まった期間は、原則としてその全額を自分の蓄えで埋めることになります。国民年金の保険料(2026年度は月額17,920円。日本年金機構「国民年金保険料」)も、免除や猶予の手続きをしない限り支払いが続きます。

パート・アルバイト

勤務先で健康保険(協会けんぽや健康保険組合)と雇用保険に加入していれば、会社員と同じ制度が使えます。加入しているかどうかは、給与明細で健康保険料と雇用保険料が引かれているかで確かめられます。引かれていなければ、自営業の人と同じ前提で考えます。

自分の必要額を出す手順

ここからは、実際に金額を出す手順です。

手順1:月の生活費を出す

直近3〜6か月の口座とカードの明細から、1か月に出ていくお金を合計します。このとき、家計調査の「消費支出」には入らない次の支払いも足します。

  • 住宅ローンの返済
  • 社会保険料(退職後は国民健康保険料・国民年金保険料に変わる)
  • 住民税
  • 保険料、奨学金の返済など

自分の数字が出せないときの参考に、総務省の家計調査では、2025年の1世帯あたり1か月の消費支出は、二人以上の世帯のうち勤労者世帯で346,297円、単身世帯のうち勤労者世帯で191,523円です(総務省統計局「家計調査(家計収支編)2025年平均」)。ただし、これは車の購入のような年に一度の支出も均した平均で、住宅ローンの返済や税・社会保険料は含みません。あくまで自分の数字が出るまでの仮置きとして使ってください。

手順2:働き方から「何か月分」を決める

手順1の生活費に掛ける月数を、公的な給付の有無と空白の長さから決めます。

働き方と家族構成収入が止まったときの公的な補てん月数の目安
会社員・共働き本人の傷病手当金・基本手当に加え、配偶者の収入が続く3か月分前後
会社員・単身傷病手当金・基本手当はあるが、ほかに収入が無い3〜6か月分
会社員・片働きで子どもがいる傷病手当金・基本手当はあるが、世帯の支出が大きい6か月分前後
自営業・フリーランス傷病手当金は国保の任意給付、基本手当は対象外6か月〜1年分

この月数は、次のように考えて置いています。会社員の場合、自己都合退職でも最初の振込までの空白は1か月半ほどで、給付が始まってからは収入の45〜80%(病気の場合は約3分の2)が入ります。空白の期間の全額と、給付が始まってからの不足分を数か月分まかなえれば、次の仕事や復職までをつなげます。自営業の場合は補てんがほぼ無いので、収入が戻るまでの期間の全額を見込みます。

手順3:不足額で確かめる

手順2の月数は目安なので、自分の数字で確かめます。

必要額 = 空白期間の生活費 + (月の生活費 − 月の給付額)× 給付を受ける月数 + 臨時の支出

計算の例を示します(数字は説明のための仮のものです)。

項目会社員・単身の例
月の生活費(手順1)20万円
自己都合で退職し、最初の振込までの空白1.5か月 → 30万円
基本手当が月に約14万円出る場合の不足月6万円 × 3か月 → 18万円
転職活動の交通費など臨時の支出5万円
合計53万円(生活費の約2.7か月分)

基本手当の月額は、ハローワークで受給資格が決まるときに示される基本手当日額から計算できます。病気の場合は、傷病手当金の1日あたりの額を上の計算式で出して、同じように不足を見ます。

手順4:家族の事情を足す

  • 共働き:どちらか1人の収入だけで固定費を払えるかを確かめます。払えない月の不足額に、空白が続く月数を掛けます
  • 子どもがいる:保育料や学費の引き落とし時期と金額を確かめ、止まった期間に重なる分を足します
  • 持ち家で住宅ローンがある:返済は止められない前提で、手順1に必ず入れます

実行時の落とし穴

手取りの月収で計算してしまう。 生活防衛資金は「入ってくる額」ではなく「出ていく額」で計算します。手取りが30万円でも、支出が20万円なら20万円で計算します。逆に、手取りより支出が多い月がある家計は、支出の多い月で計算します。

投資している資産を数えてしまう。 株式や投資信託は、必要になったときに値下がりしていると想定より少ない額しか戻りません。収入が止まる時期と相場が下がる時期は重なることもあります。生活防衛資金は、額が減らずにすぐ引き出せる預金などで持ち、投資の資金とは別に数えます。

退職後の社会保険料と住民税を忘れる。 会社を辞めると、国民健康保険料と国民年金保険料を自分で払うことになり、住民税も前年の所得に応じた額が続きます。会社員のときの給与明細で天引きされていた額を、手順1の生活費に足しておきます。

民間の保険と役割を重ねて考えない。 医療保険や就業不能に備える保険に入っている場合、生活防衛資金と役割が一部重なります。どちらをどれだけ持つかは、まず公的な給付で埋まる額を数え、その後に不足を何で埋めるかを決める順番で考えます。保険の契約内容と給付の条件は、各保険会社の約款で確かめてください。

目標額に届くまで、ほかの貯金をすべて止める。 生活防衛資金は一度に貯めきれる額ではないことが多いので、まず1か月分、次に3か月分と区切って目標を置くと進みやすくなります。固定費を下げれば月の生活費そのものが小さくなり、必要額も下がります。固定費を見直す順番から手を付けると、必要額と貯めるペースの両方に効きます。

まとめ

生活防衛資金の額は、「月の生活費」と「公的な給付で埋まらない期間と不足」から逆算できます。会社員なら3〜6か月分、自営業なら6か月〜1年分を目安に置き、自分の数字で不足額を確かめてください。制度の細かい条件は、協会けんぽなど加入している健康保険、ハローワーク、市町村の国保の窓口で確認できます。緊急予備資金の貯め方や置き場所は、保険と備えの記事一覧にまとめています。

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出典

(いずれも2026年9月に確認)