医療保険が必要かどうかは、公的な高額療養費制度でどこまで賄えるかを数えたうえで、制度の対象外になる支出を考えることで、判断の材料が見えてきます。この記事は、医療保険に入るべきかどうかの結論を示すものではなく、判断の分岐を整理するものです。

制度の目的と対象者

  • 目的: 医療機関や薬局の窓口で支払った額が、ひと月の上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給し、家計の急激な負担を抑える
  • 対象: 公的医療保険(健康保険・国民健康保険など)に加入しているすべての人

公的制度でカバーされる額

厚生労働省の高額療養費制度では、69歳以下の場合、所得区分に応じて次の上限額が決まっています(1か月あたり、世帯ごと)。

適用区分(69歳以下)ひと月の上限額
年収約1,160万円〜252,600円+(医療費-842,000円)×1%
年収約770万〜約1,160万円167,400円+(医療費-558,000円)×1%
年収約370万〜約770万円80,100円+(医療費-267,000円)×1%
〜年収約370万円57,600円
住民税非課税者35,400円

過去12か月以内に3回以上上限額に達すると、4回目から上限額がさらに下がる「多数回該当」の仕組みもあります。この上限額は、保険適用される診療に対する自己負担額が対象です。

見直しの動き: 高額療養費制度の自己負担限度額について、厚生労働省の審議会で見直しの検討が続いています。2025年12月時点の資料では、具体的な金額の方向性はまだ示されていません。上の表は本記事執筆時点で適用されている金額で、今後変更される可能性があります。

公的制度の対象外になるもの

高額療養費制度は、保険適用される診療の自己負担額が対象です。次のような費用は対象外です。

  • 差額ベッド代: 個室や少人数の部屋を希望した場合の室料(本人の希望による場合)
  • 入院時の食費負担: 食事療養費の自己負担分
  • 先進医療にかかる費用: 保険適用外の先進医療にかかる技術料など
  • 収入の減少: 入院・療養で仕事を休んだ場合の収入減(会社員の場合は傷病手当金で一部カバーされます。詳しくは保険を見直す順番を参照)

これらの費用は、高額療養費制度の計算には含まれません。

入院日数の目安(公的統計)

厚生労働省の令和5年(2023年)患者調査(令和5年9月中に退院した患者が対象)では、退院患者の平均在院日数は全体で28.4日(病院29.3日、一般診療所14.2日)です。ただし、これは平均値であり、実際の分布は次のとおりです。

  • 病院の退院患者のうち、在院期間が「0〜14日」の割合は68.4%、「15〜30日」は15.5%
  • 傷病分類別の平均在院日数は差が大きく、精神及び行動の障害290.4日、神経系の疾患93.3日、循環器系の疾患34.6日、悪性新生物<腫瘍>14.4日など

平均値だけでなく、想定する傷病によって入院日数の目安が大きく異なることを踏まえて、必要な備えを考える材料にしてください。

判断の分岐

  • 高額療養費制度の上限額を、貯蓄で無理なく賄える: 差額ベッド代や収入減も含めて貯蓄でカバーできる見通しがあれば、医療保険がなくても対応できる可能性があります
  • 貯蓄が少ない、または自営業で傷病手当金にあたる制度がない: 収入の減少に備える必要性が相対的に高くなります
  • 長期入院・療養が想定される傷病(家族歴・持病など)が気になる: 平均在院日数が長い傷病もあるため、想定される治療内容を踏まえて検討してください

出典・確認先

似た制度との違い

  • 傷病手当金との違い: 高額療養費制度は医療費の自己負担、傷病手当金は休業中の収入を補う制度です。両方の内容を踏まえて考える必要があります(保険を見直す順番参照)
  • 医療費控除(税制)との違い: 医療費控除は所得税・住民税の計算上の控除で、高額療養費制度とは別の制度です

よくある誤解

  • 「入院すれば必ず1か月以上かかる」: 患者調査では、病院の退院患者でも「0〜14日」が68.4%を占め、短期間の入院が多数です
  • 「高額療養費制度があれば入院費はすべて上限内に収まる」: 差額ベッド代・食費・先進医療費などは対象外です
  • 「医療保険の要否は誰にとっても同じ」: 貯蓄額、働き方(会社員か自営業か)、想定する傷病によって、必要性は人ごとに異なります

(いずれも2026年9月25日に確認)